平賀譲の四連装砲塔説

平仮名に直し、漢字も常用のものにしています

 

本文

四連装砲塔説

海軍造船大佐 平賀譲

三連装砲塔の採用は、一昨年来我が海軍の興論とも認め得べき迄に進みたるものの如し。

砲塔について更に考ふるに

一、重量及場所の上より見たる三連装の利益は顕著にして大艦に於て二連装五砲塔搭載艦を基準とし、更に一砲塔を追加し十二門となす為の排水量の増加四千トン以上なるに、三連装十二門艦は僅かに千トン以下にて足るべし。

 

二、然れ共三連装砲については

 

イ、三単位なるが為に迅速にして円滑なるべき弾火薬供給装置に付けては相当の困難あり。

 

ロ、射撃法については三連装斉発かもしくは左右の二門及び中心線の一門との交互発射かのいずれかなるべく、前者なりとすれば三連装を各一門宛発射し得る現在の装置は不経済にして、又砲三門を同時に扱う為に多大の力を要し、砲架も支筒も三門分の連続発射に対する設備を要すべし。

もし又交互射撃なりとせば、一砲塔の二門を発射する時間に他の砲塔は一門を発射するに止まるを以て不経済にして、これは一砲塔に奇数の砲を装備するものの免れざる所なるべし。加えて砲火指揮や操縦の上より恐らく相当の混雑あるを免れざるならんと推察す。

 

ハ、交互射撃を行うとせば一艦に装備する三連装砲塔の数は必ず偶数なるを要すべく、艦の設計上所謂「フレキシビリチー」減少し窮屈となるべし。

 

ニ、艦の計画如何に従い殊に高速力艦にては場所の狭隘なる点より、最前部には三連装を装備することの非常の不利益にして従って二連装を混用せざるを得ざることあるべし。

 

ホ、現在の戦艦も巡洋戦艦も交互発射を準縄と為すものと聞く。然らば砲塔数増せば益々然るべきならん。已に若し一艦の全砲塔の全斉射を行わざるものとせば、各砲塔をして発射毎に同数の砲を発射せしむることは、一切の点より見て最も希望すべきものなるべし。これには一砲塔内に偶数の砲を装備せざれば能はざる所なり。

或いは、杞憂に属すべきも十二門内外の艦にして全砲の斉射を行うことは、一斉射毎に艦に五度以上の動揺を来さしめ命中率に累を及ぼすが如くは、射撃間隔の時間を延長せしむるの患いなきや。

 


如上三連装砲塔の三連装砲塔の装備に就いて観察し来る時は自ら、

「三連装の利とする所は更に利あらしめ、其の不利の疑あるものは出来得る限りこれを軽減するが如くは少なくも不利を増さざるの方法なきや。」

の問題に到達せざるを得ず、而して思い起こさるるものは四連装砲塔なり。自己の推察よりするに

一、重量及場所より見て四連装の利益は、三連装よりも大なるべし。

 


二、

イ、四連装は左右各個二門を一個の砲鞍に載せれば操縦上に二門と同様なるべく故に、三連装の三単位と比して二単位にて諸事情簡略となるべし。

 


ロ、四連装は左右二門の交互発射を常則とす。故に操縦上は二連装の交互発射と差異なかるべく、水力の費消、砲架砲台の振動、船体への反動等勿論三連装の斉射よりも小にして、二連装の斉射程にも感ぜざるべし。而して弾火薬も同時には片舷の二門分を供給すれば可なり。此為に必要なれば弾庫も火薬庫も各上下二重となすべし。

 


三、四連装砲塔は一体に何基を装備するに差支えなし。又、二連装と混用するも互いに効率を減少すること殆ど無かるべし。

本問題は元々砲術家と造船家との断案に依りて定めらるべきなること。言うをまたず、八月初旬前記の趣旨に依りて吉岡少将の教を請えるに略同意を表せられたるものの、如く同下旬武藤造兵大佐に協議せしに、直に進んで計画を試みらるる事となり九月略成案を得られたるを以て、爾来予想新戦艦に対し、二連装三連装及四連装の諸計画を試みて以下記する所の諸案を得たり。聞く所に依れば四連装砲塔内部装置は、三連装に比して簡単にして具合も良好なりと。

一、十六インチ十二門を装備せる戦艦の砲塔平均重量比較表(英トン)

但し、十六インチ四十五口径弾火薬一門九十発、砲塔甲鉄十三インチ。

 

二連装
三連装
四連装
砲塔旋回部重量(トン)
825
1,110
1,380
砲塔直径(甲鉄内面)(フィート)
33.5
37.0
40.0
甲鉄、弾火薬、水力機、支筒等を加えて一砲塔の平均重量(トン)
1,860
2,340
2,780
同上 一門分平均(トン)
930
780
695
同上 比較率
1.00
0.84
0.75
二、高速力戦艦装備比較表

新戦艦は速力三十ノットとし、防御力は今日充分とは言い得ざるも、まず相当なりと考ふる程度のもの即ち加賀の速力を増して三十ノットとし之に防御力を少し増加したるもの(換言すれば、天城級の防御力を加賀級以上に増大したるもの)の排水量約47,600トンを基準艦とし、これに諸種の試みたり。其の結果は別表の通りなり。諸般軍事上の要求に基づきて排水量の増減あるは勿論とす。

本表に就いて見るに、

一、二連装五砲塔艦の排水量約47,600トン、六砲塔艦52,700トンに対し、三連装四砲塔艦42,800トン、四連装三砲塔艦46,600トンにして、四連装の排水量は二連装艦に比し約6,000トン、三連装艦に比し約1,600トンを減ず。

二、四連装三砲塔と二連装一砲塔併用の十四門艦の排水量は約50,600トンにして二連装六砲塔艦よりも2,000トン徐小なり。

三、将来の高速力巡洋戦艦又は排水量を減縮せられたる高速力戦艦には四連装三砲塔の十二門艦、5,0000トン級の高速力戦艦には更にこれに二連装一砲塔を加えたる十四門艦の計画に適切にあらざるか。

付記

同数の砲に対し砲塔の数減ずる時は、一発の敵弾の為に一時に多くの砲を損傷して被害多しとの非難あり。これには三連装と雖も免るるあたはず。然れども、砲塔の数多ければ敵弾の命中する機会も多き訳にて此事は其の全局に見て差し支えなき事を、かつて故秋山中将が扶桑艦型調査会議の節に論ぜられたることを記憶す。

約15度の落角を有する弾丸に対し(距離15,000m)十二門艦の防御甲板以上の砲塔全部の面積は、

二連装十二門艦 1.00

三連装十二門艦 0.75

四連装十二門艦 0.61

の割合なり。

加うるに火薬庫に対する「クヰーン、メーリー」流の危険は今後と雖も絶無なるを期するあたはず。これに対しては、二連装砲塔一個の火薬庫も四連装砲塔一個の火薬庫も危険の程度は少しも異なるものにあらず。

故に火薬庫の多数なる二連装艦方むしろ危険多からんと思考せざるを得ず、又砲塔及弾火薬庫は其の防御力を優秀ならしめばならしむる程四連装砲塔の重量上の利益を大ならしむるものなり。目下一部の四連装砲塔計画には中心線に防御隔壁ありて左右を遮断すと云えば相当に安全を加うるものなるべし。

 

これを要するに本問題最後の断案は、前に述べた通り砲術家及造兵家の所見最も重きを為すべく、ここに已に十二門以上の砲を装備する以上、交互射撃を常則とするという仮定の下に吾人の見て、四連装の採用を適切ならずとせずやとする所を列挙して本問題を提出するものなり。

勿論交互射撃に依るとするも、偶発的に斉発することの絶無なるを期するあたはざるべきを以て、これに対する相当の強力及設備を具有せしむべきことは言うまでもなきことなりと雖も、連続斉発を行うとせば更に深く研究を要するものありと思考するのみならず、此の如くんば寧ろ今日の二連装を一個の砲鞍に載せる様に改造し、砲塔を小にし重量を減じ二連装の六砲塔を装備するを可ならずとせずや。

左記三葉添付

一、諸砲塔装備に関する戦艦排水量比較表

二、四連装一砲塔及二連装一砲塔装備の戦艦大体配置図

三、二連装六砲塔装備の戦艦大体配置図

添付資料

原文

平賀譲デジタルアーカイブ · 四連装砲塔説。 海軍造船大佐 平賀 譲 · 東京大学学術資産等アーカイブズ共用サーバ

一、

平賀譲デジタルアーカイブ · 二連装、三連装及四連装41cm砲塔搭載艦排水量比較大体 · 東京大学学術資産等アーカイブズ共用サーバ

二、

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平賀譲デジタルアーカイブ · BATTLE SHIP "H" · 東京大学学術資産等アーカイブズ共用サーバ

三、

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平賀譲デジタルアーカイブ · BATTLE SHIP "D" · 東京大学学術資産等アーカイブズ共用サーバ